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せいぶつたようせいきほんほう

生物多様性基本法

平成20年法律第58号
生命の誕生以来、生物は数10億年の歴史を経て様々な環境に適応して進化し、今日、地球上には、多様な生物が存在するとともに、これを取り巻く大気、水、土壌等の環境の自然的構成要素との相互作用によって多様な生態系が形成されている。
人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また、生物の多様性は、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。
一方、生物の多様性は、人間が行う開発等による生物種の絶滅や生態系の破壊、社会経済情勢の変化に伴う人間の活動の縮小による里山等の劣化、外来種等による生態系のかく乱等の深刻な危機に直面している。また、近年急速に進みつつある地球温暖化等の気候変動は、生物種や生態系が適応できる速度を超え、多くの生物種の絶滅を含む重大な影響を与えるおそれがあることから、地球温暖化の防止に取り組むことが生物の多様性の保全の観点からも大きな課題となっている。
国際的な視点で見ても、森林の減少や劣化、乱獲による海洋生物資源の減少など生物の多様性は大きく損なわれている。我が国の経済社会が、国際的に密接な相互依存関係の中で営まれていることにかんがみれば、生物の多様性を確保するために、我が国が国際社会において先導的な役割を担うことが重要である。
我らは、人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、次の世代に引き継いでいく責務を有する。今こそ、生物の多様性を確保するための施策を包括的に推進し、生物の多様性への影響を回避し又は最小としつつ、その恵沢を将来にわたり享受できる持続可能な社会の実現に向けた新たな1歩を踏み出さなければならない。
ここに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用についての基本原則を明らかにしてその方向性を示し、関連する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

第1章 総則

(目的)
第1条 この法律は、環境基本法(平成5年法律第91号)の基本理念にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用について、基本原則を定め、並びに国、地方公共団体、事業者、国民及び民間の団体の責務を明らかにするとともに、生物多様性国家戦略の策定その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策の基本となる事項を定めることにより、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって豊かな生物の多様性を保全し、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「生物の多様性」とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう。
2 この法律において「持続可能な利用」とは、現在及び将来の世代の人間が生物の多様性の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である生物の多様性が将来にわたって維持されるよう、生物その他の生物の多様性の構成要素及び生物の多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさない方法(以下「持続可能な方法」という。)により生物の多様性の構成要素を利用することをいう。
(基本原則)
第3条 生物の多様性の保全は、健全で恵み豊かな自然の維持が生物の多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、野生生物の種の保存等が図られるとともに、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全されることを旨として行われなければならない。
2 生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそれがあることを踏まえ、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用することを旨として行われなければならない。
3 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び1度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法及び事業等の着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを旨として行われなければならない。
4 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性から長期的かつ継続的に多くの利益がもたらされることにかんがみ、長期的な観点から生態系等の保全及び再生に努めることを旨として行われなければならない。
5 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資するとの認識の下に行われなければならない。
(国の責務)
第4条 国は、前条に定める生物の多様性の保全及び持続可能な利用についての基本原則(以下「基本原則」という。)にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第5条 地方公共団体は、基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業者の責務)
第6条 事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、事業活動が生物の多様性に及ぼす影響を把握するとともに、他の事業者その他の関係者と連携を図りつつ生物の多様性に配慮した事業活動を行うこと等により、生物の多様性に及ぼす影響の低減及び持続可能な利用に努めるものとする。
(国民及び民間の団体の責務)
第7条 国民は、基本原則にのっとり、生物の多様性の重要性を認識するとともに、その日常生活に関し、外来生物を適切に取り扱うこと及び生物の多様性に配慮した物品又は役務を選択すること等により、生物の多様性に及ぼす影響の低減及び持続可能な利用に努めるものとする。
2 国民及び民間の団体は、基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用のための取組を自ら行うとともに、他の者の行う生物の多様性の保全及び持続可能な利用のための取組に協力するよう努めるものとする。
(法制上の措置等)
第8条 政府は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。
(施策の有機的な連携への配慮)
第9条 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を講ずるに当たっては、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあること等にかんがみ、地球温暖化の防止、循環型社会の形成その他の環境の保全に関する施策相互の有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとする。
(年次報告等)
第10条 政府は、毎年、国会に、生物の多様性の状況及び政府が生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
2 政府は、毎年、前項の報告に係る生物の多様性の状況を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。

第2章 生物多様性戦略

(生物多様性国家戦略の策定等)
第11条 政府は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な計画(以下「生物多様性国家戦略」という。)を定めなければならない。
2 生物多様性国家戦略は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策についての基本的な方針
 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する目標
 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
 前3号に掲げるもののほか、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 環境大臣は、生物多様性国家戦略の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 環境大臣は、前項の規定により生物多様性国家戦略の案を作成しようとするときは、あらかじめ、インターネットの利用その他の適切な方法により、国民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、中央環境審議会の意見を聴かなければならない。
5 環境大臣は、第3項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、生物多様性国家戦略を公表しなければならない。
6 前3項の規定は、生物多様性国家戦略の変更について準用する。
(生物多様性国家戦略と国の他の計画との関係)
第12条 生物多様性国家戦略は、環境基本法第15条第1項に規定する環境基本計画(次項において単に「環境基本計画」という。)を基本として策定するものとする。
2 環境基本計画及び生物多様性国家戦略以外の国の計画は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関しては、生物多様性国家戦略を基本とするものとする。
(生物多様性地域戦略の策定等)
第13条 都道府県及び市町村は、生物多様性国家戦略を基本として、単独で又は共同して、当該都道府県又は市町村の区域内における生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な計画(以下「生物多様性地域戦略」という。)を定めるよう努めなければならない。
2 生物多様性地域戦略は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 生物多様性地域戦略の対象とする区域
 当該区域内の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する目標
 当該区域内の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、総合的かつ計画的に講ずべき施策
 前3号に掲げるもののほか、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 都道府県及び市町村は、生物多様性地域戦略を策定したときは、遅滞なく、これを公表するとともに、環境大臣に当該生物多様性地域戦略の写しを送付しなければならない。
4 前項の規定は、生物多様性地域戦略の変更について準用する。

第3章 基本的施策

第1節 国の施策

(地域の生物の多様性の保全)
第14条 国は、地域固有の生物の多様性の保全を図るため、我が国の自然環境を代表する自然的特性を有する地域、多様な生物の生息地又は生育地として重要な地域等の生物の多様性の保全上重要と認められる地域の保全、過去に損なわれた生態系の再生その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、農林水産業その他の人の活動により特有の生態系が維持されてきた里地、里山等の保全を図るため、地域の自然的社会的条件に応じて当該地域を継続的に保全するための仕組みの構築その他の必要な措置を講ずるものとする。
3 国は、生物の多様性の保全上重要と認められる地域について、地域間の生物の移動その他の有機的なつながりを確保しつつ、それらの地域を一体的に保全するために必要な措置を講ずるものとする。
(野生生物の種の多様性の保全等)
第15条 国は、野生生物の種の多様性の保全を図るため、野生生物の生息又は生育の状況を把握し、及び評価するとともに、絶滅のおそれがあることその他の野生生物の種が置かれている状況に応じて、生息環境又は生育環境の保全、捕獲等及び譲渡し等の規制、保護及び増殖のための事業その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、野生生物が生態系、生活環境又は農林水産業に係る被害を及ぼすおそれがある場合には、生息環境又は生育環境の保全、被害の防除、個体数の管理その他の必要な措置を講ずるものとする。
(外来生物等による被害の防止)
第16条 国は、生態系に係る被害を及ぼすおそれがある外来生物、遺伝子組換え生物等について、飼養等又は使用等の規制、防除その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、生態系に係る被害を及ぼすおそれがある化学物質について、製造等の規制その他の必要な措置を講ずるものとする。
(国土及び自然資源の適切な利用等の推進)
第17条 国は、持続可能な利用の推進が地域社会の健全な発展に不可欠であることにかんがみ、地域の自然的社会的条件に応じて、地域の生態系を損なわないよう配慮された国土の適切な利用又は管理及び自然資源の著しい減少をもたらさないよう配慮された自然資源の適切な利用又は管理が総合的かつ計画的に推進されるよう必要な措置を講ずるものとする。
(生物資源の適正な利用の推進)
第18条 国は、生物資源の有用性にかんがみ、農林水産業、工業その他の分野においてその適正な利用を図るため、生物の多様性に配慮しつつ、生物資源を有効に活用するための研究及び技術開発並びに生物資源の収集及び体系的な保存の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。
(生物の多様性に配慮した事業活動の促進)
第19条 国は、生物の多様性に配慮した原材料の利用、エコツーリズム、有機農業その他の事業活動における生物の多様性に及ぼす影響を低減するための取組を促進するために必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、国民が生物の多様性に配慮した物品又は役務を選択することにより、生物の多様性に配慮した事業活動が促進されるよう、事業活動に係る生物の多様性への配慮に関する情報の公開、生物の多様性に配慮した消費生活の重要性についての理解の増進その他の必要な措置を講ずるものとする。
(地球温暖化の防止等に資する施策の推進)
第20条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用が地球温暖化の防止等に資することを踏まえ、多くの二酸化炭素を吸収し及び固定している森林、里山、草原、湿原等を保全するとともに、間伐、採草等の生物の多様性を保全するために必要な管理が促進されるようバイオマスの利用の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。
(多様な主体の連携及び協働並びに自発的な活動の促進等)
第21条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を適正に策定し、及び実施するため、関係省庁相互間の連携の強化を図るとともに、地方公共団体、事業者、国民、民間の団体、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し専門的な知識を有する者等の多様な主体と連携し、及び協働するよう努めるものとする。
2 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する政策形成に民意を反映し、その過程の公正性及び透明性を確保するため、事業者、民間の団体、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し専門的な知識を有する者等の多様な主体の意見を求め、これを十分考慮した上で政策形成を行う仕組みの活用等を図るものとする。
3 国は、事業者、国民又は民間の団体が行う生物の多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する自発的な活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとする。
(調査等の推進)
第22条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を適正に策定し、及び実施するため、生物の多様性の状況の把握及び監視等の生物の多様性に関する調査の実施並びに調査に必要な体制の整備、標本等の資料の収集及び体系的な保存並びに情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、生物の多様性の状況及びその恵沢を総合的に評価するため、適切な指標の開発その他の必要な措置を講ずるものとする。
(科学技術の振興)
第23条 国は、生物の多様性に関する科学技術の振興を図るため、野生生物の種の特性の把握、生態系の機構の解明等の研究開発の推進及びその成果の普及、試験研究の体制の整備、研究者の養成その他の必要な措置を講ずるものとする。
(国民の理解の増進)
第24条 国は、学校教育及び社会教育における生物の多様性に関する教育の推進、専門的な知識又は経験を有する人材の育成、広報活動の充実、自然との触れ合いの場及び機会の提供等により国民の生物の多様性についての理解を深めるよう必要な措置を講ずるものとする。
(事業計画の立案の段階等での生物の多様性に係る環境影響評価の推進)
第25条 国は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、1度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることから、生物の多様性に影響を及ぼす事業の実施に先立つ早い段階での配慮が重要であることにかんがみ、生物の多様性に影響を及ぼすおそれのある事業を行う事業者等が、その事業に関する計画の立案の段階からその事業の実施までの段階において、その事業に係る生物の多様性に及ぼす影響の調査、予測又は評価を行い、その結果に基づき、その事業に係る生物の多様性の保全について適正に配慮することを推進するため、事業の特性を踏まえつつ、必要な措置を講ずるものとする。
(国際的な連携の確保及び国際協力の推進)
第26条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用が、地球環境の保全上重要な課題であることにかんがみ、生物の多様性に関する条約等に基づく国際的な取組に主体的に参加することその他の国際的な連携の確保並びに生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する技術協力その他の国際協力の推進に必要な措置を講ずるものとする。

第2節 地方公共団体の施策

第27条 地方公共団体は、前節に定める国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を、これらの総合的かつ計画的な推進を図りつつ実施するものとする。

附則

(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から施行する。
(生物の多様性の保全に係る法律の施行状況の検討)
第2条 政府は、この法律の目的を達成するため、野生生物の種の保存、森林、里山、農地、湿原、干潟、河川、湖沼等の自然環境の保全及び再生その他の生物の多様性の保全に係る法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

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